昭和大学薬学部の栗山琴音氏と同大学院薬学研究科の岸本桂子教授らの研究によると、薬物乱用経験者の71.2%が「薬剤師などの有資格者による販売判断が、大量・頻回購入の抑止につながる」と回答しました。また、空箱を使った陳列方法についても、乱用経験者の59.1%が抑止効果を認め、アクセスの確保と乱用防止の観点から「望ましい陳列方法」と評価されました。岸本氏は、「乱用者の7割が有資格者の販売判断が抑止効果を持つと回答したのは予想外だった。規制対応だけでなく、薬剤師などが行うべき対応や効果的な方法を検討する必要がある」とコメントしています。
今回の調査は、一般消費者や乱用経験者から医薬品販売体制に対する意見を集めたもので、初めての試みとなります。対象者は、過去5年以内に市販薬を使用した経験がある18~39歳の800人で、そのうち「市販薬の乱用経験あり」400人と「乱用経験なし」400人に分かれ、ウェブ上でアンケートを実施しました。最終的に、乱用経験者313人、非乱用経験者400人から回答が得られました。
調査では、販売方法や陳列方法、有資格者の販売判断が購入行動にどのような影響を与えたかを質問しました。乱用経験者は「大量・頻回購入の抑止効果」を、非乱用経験者は「通常購入への支障」を評価しています。
主な結果
- 乱用経験者の主な購入先は「薬局・ドラッグストア」が84.3%、非乱用経験者は87.0%であり、両群ともにネット購入は少数でした。
- 有資格者による販売判断について、乱用経験者の71.2%が「大量・頻回購入の抑止につながった」と回答し、非乱用経験者では42.0%が「通常購入への支障がなかった」と答えました。
- 空箱を使った陳列方法については、乱用経験者の59.1%が「抑止効果がある」と回答し、非乱用経験者では22.3%が「通常購入に支障がある」と答えました。実製品の陳列による抑止効果については、乱用経験者の33.9%、非乱用経験者の22.0%が支障になると答えています。
包装量による抑止効果
- 乱用経験者の「30日分」で33.5%、「14日分」で37.1%、「7日分」で57.2%、「3日分」で62.6%が抑止効果を感じると回答。
- 非乱用経験者は、「30日分」で21.0%、「14日分」で25.5%、「7日分」で38.0%、「3日分」で46.5%が通常購入に支障を感じると回答しました。
特に乱用回数が3回以下の初期乱用者では、「30日分」や「14日分」の抑止効果は40%未満にとどまりましたが、「7日分」で57.2%、「3日分」では62.6%が有効な抑止効果があると答え、初期対応に効果的な結果が示唆されました。
包装表示による抑止効果
- 「使用方法を守らないと副作用が起こりやすくなります」といった表示では、乱用回数が3回以下の初期乱用者の59.8%が「抑止効果がある」と回答し、乱用回数4回以上では45.1%にとどまりました。
岸本氏は、「有資格者が販売可否を判断することで、薬物乱用を抑止する効果がある」と強調し、乱用が増加している現状に対し、「現在の薬剤師や販売者の対応が十分ではないため、規制だけでなく、対人的な対応策も検討する必要がある」と指摘しました。また、陳列方法については「空箱陳列は通常購入に支障が少なく、抑止効果も期待できる」としています。
提言
- 包装量については、小包装にすることで抑止効果が確認されましたが、非乱用者の通常購入に対する支障も一定程度見られたため、各成分の中毒量に基づいた包装制限の具体的な検討が必要だと提言しています。
- 包装への注意喚起表示に関しても、設問設定時には効果がないと想定していたものの、乱用経験者の方が抑止効果が高いと回答したことは興味深い知見であり、外箱表示も有効な対策となり得ると示しています。